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に向かって歩んでいるのかを認識しているといえよう。
ここまでくれば、なぜ保育所を増やし、児童手当金を上げ、育児有給休暇などの施策を断片的に整備するだけで、出生率が自動的に上がるものではないということがお分りになって頂けると思う。女性が就労を保障され、経済的に自立するだけでも、子どもは多く生まれないであろう。人が生きることの、家族形成をすることの意義が明確でない限りは。つまり制度と人々の価値観がぴったり寄りそったときに妥当な出生率の実現が可能になるであろう。
最後に、福祉という言葉は内的な、そして外的な条件を包括するものである。つまり、内的なものというのは幸せとか、精神的な充足を意味し、外的条件は物質的な豊かさを意味する。このふたつが揃ったときに、はじめて本当の福祉がありうるのである。幸せか否かを決定するのは、社会でもなく他人でもなくその人自身の主観的なものである。しかし、すべての人が幸せと思える人生を実現する客観的条件がどのくらい社会にあるかということが、つまり外的条件によって大きく左右されるということである。
このことは、家族を考える上でもあてはまることである。
最初報告書を読んでよくわからないと思った方は、この”おわりに”を読んでから、もう一度あらためて読みなおして頂きたい。スウェーデンが何を言おうとしているのか、見えてくる筈である。そうであれば、この報告書の目的が果たされることになる。私が、スウェーデン家族政策のノウハウを日本に紹介することに意義を見いださなかったことも、お分りになって頂けると思う。制度の具体的紹介よりも、制度のつくり上げられる背景を基本的な問題提起として紹介したのは、そのことによってはじめて、スウェーデンが深く理解できるであろうし、日本において何が必要なのか見えてくると考えたからである。

 

 

 

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